がんの悩み電話相談室 会報vol.6


平成14(2002)年12月

リビング・ウイル

がんの悩み電話相談室 室長 永瀬 正己

 死が近づいたと察した時、どのような最後でありたいかを書き残し、生前に実施を希望する遺言状が「リビング・ウイル」と呼ばれる様になってまだあまりの年月が経っていません。死後でなければ聞いてもらえぬ遺言状に較べて、終末期への希望は当然、別文でなければならないのです。最も簡単な様式は、「私は死期が近づいた時は延命は望みません。痛みだけはしっかり止めて下さい。家族もこれに同意です」といったものです。せめて最後に点滴でもと、家族からの希望があればこれに従う場合が殆どですが、家族の定義は従来は法律でも明らかではなく、最近の臓器移植法の付則の中でようやく祖父母から孫、同居する親族といった範囲が決められた由です。介護を担当する家族が直接「私も之に同意します」と書き添えて署名すれば、より確実でしょう。
 私は最近、定年を迎えた方には無遠慮に「あなたは遺言状は済みましたか。リビング・ウイルを是非お書きになって下さい」等とPRしております。がん末期の疼痛もキッチリと止めて呉れる治療法が可能になった現在です。ピンピンコロリも結構ですが、死期が大体予測可能な癌死も、疼痛から解放されるのであれば、満更悪くないなと考えております。リビング・ウイルは法的にはまだ保護されていませんし、之を示された主治医がどの様な選択をするか、いくらかの余地はありますが、自分自身の最後をどの様に過ごすかを考えてみることも亦、楽しからずやと考える昨今です。


がんの悩み電話相談室は平成八年九月に開設し、電話相談事業、ボランティア養成講 座事業など内容の充実に努めながら継続実施しております。がんの患者と家族のため のクラブ「並木ひろば」も平成一一年二月に開設し継続実施しています。このような 事業を通して患者さんやご家族の不安や悩みを少しでも受け留めることができ、自ら 治療の方向性を選択できるように事業を継続したいと思います。ご賛同いただいた会 員の皆様ありがとうございました。




●がんの悩み電話相談室総会
平成一四年四月二〇日に開催し、平成一三年度事業・会計報告、平成一四年度事業計画・予算など審議了承されました。

●がんの悩み電話相談事業
毎週土曜日午後二〜五時の三時間実施しています。相談員は当室実施の「電話相談ボランティア講座」修了者で、医療関係者、ソーシャルワーカー、会社員、公務員、主婦等、様々な職種のボランティア相談員が交代で一回三名体制で担当しています。

《電話相談事業の概要》
相談件数は平成八年九月開設以来同一四年一〇月末で四八二件、利用は増加傾向にあります。相談内容の分析は平成一四年三月末で別表のとおりです。

●教育研修部会事業
《電話相談員の研修》
月一回二時間程度定例の勉強会、「聴き方について」「がんの各論」などの研修を行 っています。今年度は一泊研修も実施し内容を更に深めました。また、関係機関の実 施するがん関係の講座・講演及び当室実施の「ホスピスボランティア養成講座おかや ま」などに参加、相談員の資質向上に努めています。
《一般の方々を対象》
「ホスピスボランティア養成講座おかやま」基礎講座第Y期(表1)を開催し、がん の正しい知識やよりよい終末期医療・看護・介護のあり方などの内容で実施しまし た。受講者/一四〇名、修了者/一〇五名、公開講座のみの受講者/一八名
《基礎講座修了者対象》
「電話相談ボランティア講座」(表2)を開催して一二名受講し、一一月一六日修了 式を迎えました。この内八名が「電話相談員」に応募し、当室教育研修部の審査を経 て活動予定です。
《共催団体として運営等協力》
第三回「ホスピス・緩和ケア国際セミナー」を平成一四年一一月四日、かとう内科並 木通り診療所と共催しました。講師/ゲイル・ニコルソン氏、ジャネット・ジャクソ ン氏(英国セントオズワルド・ホスピス)、参加者/一五〇名 《後援団体として運営等協力》 緩和医療研究会主催「おかやまホスピス・緩和ケアの集い」を後援し、平成一四年九 月二一日に実施しました。講師/日野原重明氏、田中紀章氏、参加者/一八〇〇名

●がんの患者と家族のためのクラブ「並木ひろば」活動報告
例会での語り合いは、毎回、止まるところを知らず(?)病気の話から世間話、人生 論、果てはあの世の話まで登場し、終了時間を告げるのに苦労しています。また本年 度は、竜の口グリーンシャワー公園(岡山市)への散策、そして第Y期ホスピスボラ ンティア養成講座おかやま「基礎講座」への講演依頼がありました。四人の会員がテ ープ録音での参加、そして、北出さんが皆さんの前で、自らの体験を話してください ました。講演後、北出さんから次のような感想を頂きました。

《ホスピスボランティア養成講座おかやま「基礎講座」に出席して》   北出 勲
初めに、「基礎講座」で発言の場をくださった、事務局の皆様に感謝します。貴重な 時間をいただき多数の皆様に私の体験をお話しさせていただいたのですが、皆様が本 当にお知りになりたかったことの万分の一もお伝えできなかったと思います。 お話をさせていただきながら、また他の遺族の方やがん体験者の方々のお話を聞かせ てもらい、私自身が勉強させてもらいました。
 お話をしながら、病名を知らされてからの自分のことよりも家族、それも妻のとった 行動が思い出され、胸の詰まる思いがしました。
 大阪より妻の待つ我が家に帰って妻の顔を見た途端に、言葉も出ず、出るのは涙だ け。それからの数日間は何をする気力もなくただ沈み込んでいる私を、自分で探して きた病院に連れて行き、妻自身も体調が悪かったのを全く顔に出さずひたすらに私を 元気づけてくれた妻を思い出し、今更ながら妻に対して『ありがとう』と感謝の気持 ちでいっぱいになりました。また、パネラーとしてお話しされた遺族の方の胸の内、 悲しみのお話について、座長の堀井先生から感想を尋ねられた時も、少し粗っぽかっ たですが何のためらいもなく「とにかく患者より家族を、医療に携わる人たちは大切 にケアーしてください」とお願いしました。
 多くの一般の人たちのがんに対する知識は、新聞や雑誌などから得られたものだと思 いますが、さまざまなメディアでのがんの話題は、恐怖を与える内容に偏っており、 新しい治療や治療法の選択に関する情報が少ないように感じられます。そのため、た だがんはオソロシイとの思いが強く苦しんでおられる患者さんやご家族も多くおられ ます。そういう患者さんやご家族の方々に、体験のある私どもがん体験者がどんどん 社会に出て行き、本当の思いを聞いていただいたり、時には苦しみながらも前向きに 希望を持って明るく生きている姿を見ていただくのも、一つの使命だと思います。 同病者だけで篭もらず、世の中に生かされている恩返しをしましょう。



 

並木通りに通って


林 寿

 「今日もまた生きているなり寝室の 障子の向こうに明かりをぞみる」(作者不詳)
 この作者はどんな面持ちで詠んだのでしょうか。夜が明けるのを待って今日も力いっ ぱい働こうとしているのでしょうか。それとも寂しく指を折っているのでしょうか。 読者の自由な想像におまかせするほかありませんが、ともかく一日一日を大事に悔い なく過ごそうとしているのではないでしょうか。
 「わしらあなあ、弾丸の中をくぐって来たから死ぬことなんか何ともおもわないわ」
 いくらか強がりがあるのかどうかわかりませんが、こんな言葉を時折聞くことがあり ます。
 「わしもなあ、たまの中をくぐってきて、運良く生きて帰ってきたんだけど、今にな って癌とはなあ」
 少し詠嘆の感がありました。
 「せえでもこの歳になったら、いつ何が起きてもおかしくないわなあ」
 自分に言い聞かせるように、わずかな笑みとともにつけ加えられました。
 また、こんな時もありました。
 「私も四捨五入すれば五十になるんだなあ」
 ぽつんと独り言のように呟かれました。一瞬静まり返りました。だれも反応はしませ ん。本人の気持ちがよくわかっていたからでしょうか。
 人それぞれに想いがあり悩みを持っています。こうした想いや悩みを聞かせてもらっ て少しでも気持ちを和らげて差し上げることができたら……。でも、そんな大それた ことはなかなかできそうにありません。重く奥深い想いが簡単に解けるとは思われま せん。
 並木通り診療所やがんの悩み電話相談室でボランティアをさせて頂いていますが、気 の利いたことはできません。少しでも励ましてあげられたらと思って行ったつもり が、逆に励まされて帰っている自分がいたりします。
 目を外に転じますと、秋酣を芳香で知らせてくれる金木犀、秋の味覚の柿、はては色 鮮やかな紅葉などなど、皆持っている自分の力を、生命力をいっぱいに使って生きて いるんだなと改めて畏敬の念がこみあげてきます。大きな自然の力の中で私たちは生 かされているんだなと感謝せずにはいられません。
 最近心に感じた詩を紹介させて頂きます。

 あじさいの花
  (山下静夫著『詩集 火垂る物語』 手帖舎、一九九〇年より )

雨脚が遠ざかった午後
紫陽花寺に行ってくると妻が言った
友禅染を楽しんでいたので
染め上がりの色を考えたいのかと
思いながら見送った
次の日
病弱の肩をさらに落として
風のように帰って来た妻
紫陽花の絵や写真に見入っているとき
紙入れから水子地蔵のお札が落ちた
紫陽花
天の雫を吸った大地が
うす青
それから青紫に
そして赤紫に
色を移して染め上げていくのだ
あじさい
人の涙も吸って
染まっていくのか
 思い直して再びボランティアの道へ。日本のどこかで、待ってくれている人がいるの ではないかと、無理矢理自分に言い聞かせながら……。



《事務局だより》
「がんの悩み電話相談室会報」第六号をお届けします。
 開設は平成八年九月二八日、深いご理解を頂いた永瀬正己先生を室長にお迎えし、 多くの会員のご支援と当室教育研修委員の方々の専門的ご指導により、紙面に掲載し ました事業を継続し六年が経過しました。
 今年度も「赤い羽根ボランティア・NPO育成支援事業」助成、オートバックス共 済会の賛助会員継続、養成講座修了者からの支援など、少しずつ支援者の輪が広がっ ています。
 相談件数も山陽新聞に相談日を毎週紹介くださることで増加しております。電話を かけてよかったと思ってもらえる豊かな対応ができるように、相談員の資質を高める 教育研修をより深めていきたいと思います。
 がんの患者と家族のためのクラブ「並木ひろば」に集まっての語らい分かち合いな ど、参加者各々の思いを少しでも遂げる場になればと思います。
「ホスピスボランティア養成講座おかやま」など事業内容をより充実をはかりなが ら継続していきたいと思っています。
 ホームページの開設により情報提供が早く豊かになったと思います。ご利用くださ い。
 このように事業を継続し報告できますことに対し、ご支援いただいた皆様に心から お礼申しあげます。ありがとうございました。 (二〇〇二年一二月 赤木記)